書評: イグナシオ
イグナシオ
花村萬月 著
角川文庫
ISBN4-04-189805-6
「知ってるのにやるってことは、暴走する機械を許すってことかな」
(p.119)
早朝の新宿なんてここ数年というか十数年以上見たこともないのだが、多分今でもそう変わらないのではいか。パラダイスを期待して新宿歌舞伎町に出てきたイグナシオの見たものはゴーストタウンだった。てんぷら☆さんらいずという歌には午前5時の新宿が出てくるが、今だと朝はカラスが占めているかもしれない。
イグナシオの行動はバイオレンスであり、かつ論理的でもあり、しかし運命に後押しされたものかもしれないし、とにかくある種の輝きがある。このストーリーを読むと、どうもイグナシオに気を取られてしまうのだが、その実面白いのは、イグナシオに遭遇した人たちの反応だ。むしろ、その他大勢の人たちが、イグナシオが暗黙に命ずるままに、運命に従って行動させられてしまう、そのようなパターンである。
「イグナシオって、天使かもしれないね」
「オレが? 天使? こんなヒネた?」
(p.216)
堕天使という言葉もあるが、イグナシオの場合はそうではない。天使なのである。だから、その他大勢の役割の人たちは、簡単にその運命に飲み込まれてしまう。実際、世の中には、他の人に振り回されてしまう人が大勢いる。というか、殆どの人はそうだ。自分では何も判断できなくても、他の人の言うことを信じていれば、何とか暮らせるものである。そこに必要なのは人間性とか自立性ではく、運命に従うという従順性なのである。
この種の小説に抵抗を感じる人もいるかもしれないが、面白く読めるという人は、それなりに気をつけた方がいいかもしれない。
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