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書評: 小学生からのロジカルシンキング




ロジカルシンキングができていない質問や回答があまりにも Yahoo!知恵袋に多いので、一番分りやすそうなのを買ってみた。
5つの章、12+αのステップにコンパクトにまとまっている。


Step 2 の「マラソンの効果的練習は?」の問題を紹介しよう。

(ア) 新しいシューズで、水を飲みながら、いつもより長く練習しました。
(イ) 新しいシューズで、いつもと同じ時間だけ練習しました。水は飲みました。
(ウ) いつもより長く、お気に入りのシューズで練習しました。水は飲みませんでした。
(エ) お気に入りのシューズで、練習中に水を飲み、時間はいつもと同じだけ練習しました。
(オ) 新しいシューズで、練習中は水を飲まずに、いつもと同じ時間だけ練習しました。

(p.20)


その結果、(ア)と(エ)で記録がよくなったという。
この後、3つの問題があって、その2問目。

2. マラソンの記録をよくするための練習では、いつもより長い時間練習をすることは(必要・必要ではない)。それは( )と( )をくらべるとわかる。
(p.21)


この問題の解答は、「必要」(ア)(イ)となっている。解説から引用する。

「アとイは、時間以外の条件(シューズと水)は同じですので、この2つを比べます。いつもよりも長い時間の練習した練習アで記録が伸びているので、「いつもより長い時間の練習」は必要であることわかります。」
(p.23)


解説は「調べたいこと以外の条件を同じにする」という、
ロジカルシンキングにおいては基本中の基本を指摘しているのである。
条件がいくつも混ざっていると、どの条件によって結果に至ったか判断できなくなってしまうから、
論理的な結論を出す妨げになる。


実際には表も出ていて、それを使って考えると簡単に判断できることも示されている。
表を活用するのもロジカルシンキングのテクニックとしては定番だ。
この本、このようにきっちりポイントがおさえてあるのがいい。
しかも、問題が面白いし分りやすい。
小学生からというのもポイントが高い。
それを意識しているのだろう、文章が平易に書かれているのもいい。
ということで、興味のある方には、この本をご一読することをおすすめしたい。


*


え、これで終わり?


な訳がないと想像した人は私の性格をよく分かっていらっしゃいますね…


もちろんそんな所で終わらせたりはしませんのでご安心を。
「解答は~となっている」と書いたところで気付いた人もいるだろう。
「~だ」と書けばいいのに、なぜ「~となっている」なんて書き方をする? 
注意深く解釈するというのもロジカルシンキングには必要なテクニックだ。


別のところに注目する。
注目する条件は(エ)、この1つだけだ。

(エ) お気に入りのシューズで、練習中に水を飲み、時間はいつもと同じだけ練習しました。


ロジカルに考えてみよう。
(エ)は記録がよくなったケースである。
つまり、いつもと同じ時間しか練習していないのに、記録が良くなっていることが分るのである。


だったら、時間がない人は、お気に入りのシューズで水を飲んでいつもと同じ時間練習すればいいのだ。
そうすれば、時間を余計にかけなくても記録はよくなるだろう。
いつもより長い時間練習する必要はないのでは?


私の言ってることって、ロジカルに間違ってますか? だったら私がバカだというだけのことだから、こんな投稿は無視してバカにしてくれて構いません。


でも、私の主張が正しかったら、これは大変なことになのでは?


だって、この本を書いた人はロジカルシンキングを教えているプロの人ですよ。
しかも、これはロジカルシンキングを教えるのが目的の本なのである。
そんな本の中に書いてあることが論理的に間違っていていいのか?


もしこの問題の文が「必要・必要ではない」ではなく、「効果がある・効果がない」であれば、本の解答には何の異議もない。完全に同意する。


しかし、必要かどうかという話と、効果があるかどかうという話は、次元が違う。
必要というのは、その条件がなければ結果が絶対に得られないという意味である。
論理学には必要条件という言葉も出てくる。
必要という表現は慎重に使わなければならない言葉の一つだ。
(まだざっとしか見てないが、この本には必要条件と十分条件という言葉が出てこないような気がする。
Step6, Step7 あたりで出ていてもよさそうなのだが…。)


他の条件が全て一致した上で、長時間走れば結果が出るというのなら、長時間走ることで効果が得られることは分る。しかし、それが必要かどうかは分らないのでは?


ではどうすれば「必要」であることを判断できるか。その条件がない場合には「必ず」成功しない、そこを検証しなければならない。
必要というのはそういう意味だろう。
なくてもいいような条件は必要とは言わない。


ということで、
まだ全部読んでないんだけど、面白そうな本なのでぜひ一読して欲しい。
但し、ぜひとも慎重に。


小学生からのロジカルシンキング

苅野 進 著

ソフトバンククリエイティブ

ISBN-10: 4797363142

ISBN-13: 978-4797363142

本体1200円。


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コメント

シューズの新旧、水を飲むか飲まないか、いつもと同じ時間か長時間か、という3つの条件の組み合わせですから、全部で8通りありますが、問題では5通りしか出ていません。
また、それぞれの条件が互いに独立か否かの検証もされていません。
ですから「この問題文だけではロジカルシンキングはできない」というのが正解なのではないかと・・・(^^;

お気に入りのシューズで、練習中に水を飲み、長時間練習するとタイムが落ちた。(エと練習時間だけ条件が違う)
という可能性もある訳で・・・
そうすると、「新しいシューズの場合は長時間の練習が有効だけど、古いシューズでは逆効果」とか(^^;

投稿: <セルダン> | 2012.12.10 18:20

新しいシューズで無茶苦茶長い時間練習したらお気に入りのシューズになりました、とかいう…

まあ確かに、(ア)と(エ)で飲んだ水は魔法の水だった、という可能性もあるわけですが、ここは発想を変えてロジカルではなくファジーな結論を出すのがいいような気もしてきました。あるいは、ロジカルにファジーな結論を出すみたいな。

投稿: phinloda | 2012.12.12 11:16

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