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書評: エンジェル エンジェル エンジェル, 梨木香歩

おかあさまは朝からせはしなくねえやのツネにご用を言ひつけてらした。


(p.14)


ねえやか…


ねえやなんて言葉はもう今となっては完全なる死語であろうか。
私だって本物のねえやは見た記憶がない。
本当は記憶がないほど幼かった頃に見ているのかもしれないけど。
でも「赤とんぼ」という歌には、ねえやが出てくる。
今風にいえばメイドさんってところか。


以前住んでいたアパートの大家のおばあさんは、ねえやの話をよくしてくれた。
そのおばあさんはコロッケを揚げるのが上手で、何度もご馳走になったものだ。
私はそのおばあさんの話を聞くのが好きで、たまには何度も同じ話をするのだけど、
気にせずそれを聞いていた。
お年寄りの話というのは、ファンタジーのような異世界で、とても面白い。
しかしそれは現実にあったことなのである。フィクションではない。


そのおばあさんも昨年亡くなって、携帯電話に録音された声が残っている。


この本は解説に「からくり小説」と評されているが、その通りのものだ。
解説は「西洋骨董」というのだが、私には精巧な寄木細工のように見える。
伏線が絡み合っている様は、推理小説なのである。
しかも読む順番が大変重要なのである。


最初に一度目、読んだとき、ちょっと違和感があった。
この物語に出てくるばあちゃんが、
なぜ水槽のモーター音で覚醒するのか理由が分からなかったのだ。
二、三度読んだときに理由が分かった。
すごく簡単なことだったが、それを一度で全部味わうためには、
全部記憶しながら読む位の集中力が必要なのだと思う。
逆に読まないと分からないようなこともある。


音や匂いから過去が蘇るというのは誰にでもよくある話で、
私だって何かこれは懐かしいというコトはたくさん持っているはずなのだが、
それが何なのか分かることはあまりないかもしれない。


聖書が出てくる。


聖書は一度は読んでおいた方がいい。
でないとヨシュア記と言われても訳が分からないだろう。
聖書の中の物語まで伏線にするというのは、ある意味反則だと思う(でも多分伏線になっている)。
まあでもヨシュア記とか黙示録は、それなりに面白い所なので読んでおくべきだ。
そもそもエンジェルという言葉がタイトルに三回も出てくるのだから、そういうバックグラウンドが要求されるに決まっている。
キリストって誰という人もいるかもしれないが、
クリスマスイブには馬鹿騒ぎする国なんだから、聖書くらいは読んでおいた方がいい。


§


何の本なのですかと言われてしまいそうなのでどんな本なのかというと、さうですね、難しい。
どう難しいかというと、中身がない。
中身がないというのは何もないということではない。枠というか、箱があるのだ。
そして、その中に入るのは自分自身だ。
だから、この作品の世界は、人間一人ひとりの人生が違うように、読む人によってその中身を変えてしまうような気がする。
自分がその中に入ってぴったり来るかどうかという話だ。
私はどうなんだろう。この世界はちょっと大きすぎて手に負えないような気もする。


長い作品ではない。ストーリーも謎解きさえ考えなければ分かりやすい。
ただ、旧仮名使いの表現がたくさん出てくるから、
さういふのに慣れていないとちょっと読みにくいかもしれない。


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