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書評: チソン、愛してるよ。

チソン、愛してるよ。
イ チソン 著
アスペクト ISBN: 4757210167

先日紹介した本で、とりあえず読んだのだが、先に例の事件に関しての話を書きたい。加害者の父親は次のように手記に書いているのである。

あのような本に興味を示して、私の話も素直に聞いていた娘の心の中に、恐ろしい考えが隠れていたとは、今でも信じられない気持ちです。

「あのような本」というのがこの「チソン、愛してるよ。 」なのだ。この本の内容はチソンさんという人が交通事故でものすごい火傷で死にそうになった所から奇跡の生還をするという実話なのだが、Amazon の書評にも何人か書いているように、その本の凄いのは本人というより、兄や母親の接し方だと思う。

救急車が漢江をわたっていたとき、兄はわたしを抱いて漢江に飛び込もうと考えていたそうです。
(p.43)

ところが加害者の父親の手記に、このような言葉が出てくる。

反省の言葉を自分から手紙に書いてくるようになり、私どもも娘の心の大きな変化を感じております。

この父親がその後「全国の皆様にも、不安と御心配をおかけしました」と書いているのだが、赤の他人の私が不安に思うのはそうではなく、これからこの人達は一体どうするつもりなのだ、ということだ。チソンさんの家族に比べると、加害者の親子の間には恐ろしく広く深い谷のようなものがあって、しかもお互いの距離を縮めるということを無意識のうちに拒絶しているかのような何か絶望的なものを感じてしまうのである。おそらく加害者の父親はこの本を読んだのだと思うが、自分の体を取り替えられるものなら一千回でも一万回でも取り替えてやるというチソンさんの母親の接し方をどう解釈しているのだろうか?

さて書評に戻りたいのだが、この本はそういうノンフィクションである。ただし、背景にはかなり強烈にキリスト教的な思想があるから、その種の知識や経験のない人には理解し辛いものがあるかもしれない。とはいっても、それはおいといても読んで損はしない本だと思うし、そんなことは知らなくてもちゃんと読める本なので心配はいらないと思う。

ただ、書評を見ると、感動したとか、泣いたとか、その種のことが書いてあるのだが、私はあまり泣く気にはなれなかった。理由ははっきりしていて、裏ページに最近思い出したと書いた「東京がけっぷち倶楽部」とつい比べてしまうからだ。

何の話かというと、チソンさんは確かに大変な目にあったし、そこから奇跡の回復、神様はいるのだといってしまえるようなこの世界に戻ってきた。本人だって幸せだと書いている位だから、幸せなのだろう。サイトがあって、今も大勢の人が見に来てくれるらしい。

「東京がけっぷち倶楽部」というページを書いていた千葉氏はどうかというと、何をやってもうまく行かず、がけっぷちからどうしても抜け出せないし、あまつさえ末期ガンだと宣言される。視力が落ち、マンガ家なのにペンが持てなくなって、病院から携帯電話を使って緊急用の掲示板に投稿していたが、1か月位ページが更新されていないなと思ったある日、ご家族が「兄は永眠しました」というメッセージを書く。以前はミラーサイトがあったのだが、今はそれすらない。web archives に断片だけ残っているのが微かな名残である。

とはいっても、それはそれで人生なんだろうなぁ、とか思うのである。また例によって全然書評になってないなぁ、すみません。

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